原状回復特約
頻繁に目にする「原状回復特約」ですが、以下のような考え方が示されております。
- 賃借人が賃貸借契約の締結にあたって、明渡し時に負担する原状回復費用を予想する事は困難である
- 賃借人は、賃貸人側で作成した定型的な賃貸借契約書の契約条項の変更を求めるような交渉力を有していない事
- 賃貸人は、将来の自然損耗等の原状回復費を予測して賃料額を決定する方法が可能で、賃借人はこの点が高いか安いかを判断資料となる
本件原状回復特約は消費者の利益を一方的に害するものと認定し、消費者契約法第10条により無効とした京都地裁平成15年6月30日
- 賃貸人側で作成する復元基準表は、原状回復の要否の判断を専ら賃貸人に委ねている点で客観性を欠き、公平の観点から均衡を失する
- 入居申込み者は、賃貸人側で作成した定型的な賃貸借契約書の契約条項の変更を求めるような交渉力を有していない
- 賃貸人は、将来の自然損耗等の原状回復費用等を予測して賃料額を決定する方法を採用する事が可能である
「賃貸借契約で予定されている通常の利用により賃借目的物の値が低下した場合は、賃貸借の本来の対価というべきものであって、その減価を賃料以外の方法で賃借人に負担させることはできない」とし、本件原状回復特約が、民法の原則以上に賃借人の目的物返還義務を加重するものと認定し、消費者契約法第10条により無効とした京都地裁平成16年6月11日
特定優良賃貸住宅の原状回復特約
本件特約の成立は、賃借人がその趣旨を十分に理解し、自由な意思に基づいてこれに同意したことが積極的に認定されない限り、安易にこれを認めるべきではない。
形式的手続きの履践のみをもって賃借人が本件特約の趣旨を理解し、自由な意思に基づいてこれに同意したと認めることはできないとして、本件特約の成立を認めなかった。 大阪高裁平成15年11月21日
退去立会確認書にサインをしてしまった
そもそも「通常の使用」を超える損耗でない以上、原状回復費用の支払い債務が発生していないのであるから、署名押印したからといって、特段の事情がない以上、そのため新たに原状回復費用の支払い債務が発生することにはならない。 大阪地裁 平成7年(レ)第28号
「賃借人が修繕義務を負担する」とする特約
賃借人が修繕義務を負担するという特約は、単に賃貸人の修繕義務を免除する意味しか有せず、賃借人に積極的に修繕義務を課した趣旨ではない、とした 最高裁判所 昭和43年1月25日
定額補修分担金条項
月額賃料6万3,000円、共益費月額6,000円、更新料家賃1カ月分、定額補修分担金16万円という契約の事例において、裁判所は以下のように判断しました。
定額補修分担金特約は、民法の任意規定の適用による場合に比して賃借人の義務を加重するものというべきで、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法10条に該当し、無効である。
(京都地裁平成20年4月30日)
分担金額について、賃貸人側は通常修繕費用にどの程度の費用を要するのか情報を持ち、借りる側は情報が無いのが一般的です。
多くの事例では貸す側だけは100%(に近い)損をしないような額を設定しているケースが多いようです。
「この部屋の」クロスを全部替えて、ルームクリーニングをして、エアコンの洗浄もして、まだ十分の余裕があるような額を定額として設定しておき、床等の修繕があっても賄えるようになっているのでしょう。
クロスを全部替える必要が発生する事は、それほどないでしょう。(今回は居室部分は替えるとか、玄関通路部分は替えるとか)
床などは更に張替えを行う確率は低いでしょう。(部分補修はありかと思いますが)
そのような場合には貸す側が丸儲けという内容ですから、まさに情報や知識を利用して経済的な負担を借りる側だけに負担させようという内容であると思います。
他にも12万円の定額補修分担金条項を無効とした判例(大阪高裁平成22年)
25万円の定額補修分担金条項を無効とした判例(大阪高裁平成22年)
経過年数を考慮して負担金額を決定すべき
賃借人は特別損耗分のみを補修すれば足りるものであるが、施工技術上、賃貸借契約締結時の状態から通常損耗分を差し引いた状態までの補修にとどめる事が現実的には困難ないし不可能であるため、通常損耗分を含めた原状回復まで行っているものである。したがってこのような補修工事を行った賃借人としては、工事後、有益費償還請求権を根拠に賃貸人に通常損耗に相当する補修金額を請求できるものと解されるから、契約終了時に賃借人自ら補修工事を実施しない時は、契約締結時の状態から通常損耗分を差し引いた状態まで補修すべき費用相当額を賃貸人に賠償すれば足りると解するのが相当であり、「原状回復を巡るトラブルとガイドライン」の見解は上記と同旨の見解に立脚するものである。
(大阪高等裁判所判決平成21年6月12日)